知っておくべき リープフロッグ現象とは -決済・医療・配車の事例- #adventcalendar

みなさんこんにちは!インドブロガーのKayoreenaです。

本日はアドベントカレンダー3日目です。12月の頭から25日まで連続でインドに関する記事を更新しています。

今日のテーマは「インドを語るなら知っておくべき リープフロッグ現象とは」についてです。

インドについて語る時に、知っておきたい事前教養として、さまざまな切り口があるのですが、知っておきたい事象の一つの中に「リープフロッグ現象」というものがあります。

みなさんはリープフロッグ現象という名前を知っていますでしょうか。急激に変化するインド市場、特にスタートアップにおいては、この「リープフロッグ現象」を知っておく必要があります。

リープフロッグ現象とは

文字通り「飛ぶカエル」であるリープフロッグ現象は、テクノロジーによる新しいサービスが、本来整備されてあるべき社会的なシステムが未熟であることにより、より早く一般に浸透し、その新しいインフラが社会の標準となる現象のことです。これは書いた通り、社会的な仕組みが未整備である途上国で起こりやすい現象であります。

リープフロッグを実現した国は、いずれも先進国では当たり前の技術やインフラなどが未整備だったり、貧弱だったりする。このため既存の技術と新しい技術との「摩擦」が起こらず、事業者も利用者も新しい技術を抵抗なく受け入れることができるという。

リープフロッグとは? アフリカやアジアで起きている技術革新に注目 より

これは生まれてこれまで、日本で暮らしてきている人たちには少しイメージしにくい現象かもしれませんが、いわゆる途上国という国で起こりやすい現象として知っておくのがいいでしょう。

私が初めて2016年にインドに来て驚いたことは、いろいろなオンラインサービスが実は日本より(都市部においては)一般的に使われているということでした。

例えば電子決済。今でこそ日本もそれなりに電子決済アプリは浸透してきていますが、2016年ごろ、日本よりインドの方が圧倒的に浸透していた印象がありました。2022年現在を切り取っても、みなさんがイメージしているより遥かに、インドで電子決済アプリは一般的に使われています。実際、現在日本で主に使われている電子決済の一つであるPayPayは、既にインドで流行っていたPaytmという電子決済サービスの技術基盤がベースとなり輸入された形でサービスがスタートしています。本当に小さな屋台ですらも、この電子決済は取り入れられています。

なぜPaytmが流行ったのか?

Paytmがインドで流行る要素はどこにあったのでしょうか?その一つの理由は、人々の銀行口座開設の基準を大きく引き下げたことが一つの成功の要因と言われています。インドには様々な身分の人がいますが、金融機関で口座を開設するには、身分を証明する手続きや、一定複雑なステップが必要とされていました。しかしPaytymはこの手続きを電子化し、かつ携帯電話があれば誰でも簡単にアプリの口座を開設ところまで簡易化しました。これにより「携帯電話で電子決済アプリを使うこと」が一気に広がりました。

実際に私が依頼をしていたメイドさんも、銀行口座は持っていませんでしたが、携帯電話は持っていたため、月々の給与はPaytmに振り込んでもらう形で受け取っていました(2022年現在、Paytmは現地の銀行口座を持っていないと厳密には開設できない仕組みになっているため、実際の体験があった時から状況は変化しています)

これが既に、日本のように一人一人が当たり前に銀行口座を持っている社会では、ここまで急速に普及しなかったかもしれません。インドのように、銀行口座そのものの取り扱いが広まっていない地域では、先に電子での口座開設が体験として起こると、それがベースとなり今後の取引がはじまるわけです。

また、当時は2016年に起こった高額紙幣廃止の政策も、電子決済の急激な普及を後押ししました。

インドの高額紙幣廃止は効果があったのか? 2018年インド準備銀行報告書より vol.485

2018-08-31

Uberも、はるか前からインドでは普通に使われている

リープフロッグ現象の事例としてもう一つ紹介したいのは、Uberの事例です。インドでは世界的に有名なUberも、もちろん使われています。現地の企業でも、配車アプリで有名なOlaというサービスがあります。

タクシーに関しても、インドでのUber体験の方が優勢です(コロナ明けでドライバーが田舎に帰ってしまい、タクシーが捕まりにくくなっている問題はありますが、今回はその点においては一旦触れないで話を進めます)

日本でも最近、ようやく配車アプリが使われつつあるように見えますが、インドでは(少なくとも私がいた)2016年ごろ普通に使われていました。金額も安いですし、支払いもオンラインで済むのでとてもスムーズです。領収書もアプリ内に保存されます。

なぜインドの方が体験がよく、アプリが普及したのでしょうか。

これはどちらかというと「なぜ日本では流行らなかったのか」と解く方が早いでしょう。一つはUberのビジネスモデルが、現状の日本社会において、既存のタクシー業界からの強い反発があり、普及しなかったという歴史があります。

こちらの記事も参考になります。

なぜUber配車サービスは日本で失敗したのか?

米国には以下のような発想もあるようにも思えます。

テクノロジーの発達によって法律の改正が追いついていないだけで、自社やユーザー、社会の便益を考えてプラスしかないと確信できるとき、CEOは現行法を無視してそれを実践して良いのだ、という考え方です。特にシリコンバレーには、こうした考えがあるように思えます。これは次世代のビジネスモデルへの移行を一足飛びに実践して既成事実を作ってしまう方法です。

日本は米国と違って、監督官庁への問い合わせや事前の認識合わせをせずに前のめりに事業を展開して、それで既成事実を作ればどうにかなるという国ではない、ということかと思います。世論にも、そうした私企業を応援する風潮はありません。

日本の社会実装に足りなかったのは、テクノロジーのイノベーションではなく、社会の変え方のイノベーションだった」と結論しています。

オンライン診療で田舎にまで医療を届ける

最後に医療系のサービスのリープフロッグ現象の紹介です。インドで使われているオンライン診療についてです。少し古い記事になりますが、2013年に創業したDocs Appは2019年当時、1日7000人が受診し、2016年に約2000人だった月間の有料オンライン診療数は、33カ月で約100倍まで増加しました。

インドのオンライン診療が熱い!より

インドでは日本のような皆保険制度はなく、民間医療機関を受診する患者はすべて自己負担となってしまう背景や、都市部に高次医療が集中している点があり、医療需給のミスマッチ解消が必須課題として挙げられていました。対面診療と比べて低料金で、移動費負担もなく手軽に受診・医療相談ができる仕組みとして、オンライン診療が一気に普及したのです。

先日、インド出張した際には、訪問型血液検査で、わずか数時間で健康状態が判断できるサービスも実際に体験しました。日本では病院で健康診断を受けて、数日待たないと手に入れられないような健診情報も、その日のうちに取得することができるのです。

(実際のレポートの一部を紹介)

このインドの医療発展の事例に比べると、日本のオンライン診療は、コロナの状況にもかかわらず、わずか7%にとどまりました。

こういった具体的な事例から分かるように、元々社会的な仕組みやルール、インフラがない方がむしろ、新しいテクノロジーの変革を受け入れやすい土台があるといえるのです。インドは日本と比べ、まだまだ社会的に未整備な部分もありますが、そのおかげで新しいサービスが浸透しやすいとも言えます。日本にいる私たちは、社会が成熟している分、既に当たり前とされているルールや仕組みを、世界標準と比較して客観的に見る必要があります。そうでないと、テクノロジーの変革にどんどん取り残されてしまいます。

リープフロッグ現象は、世界の様々な地域や国で起こっている事象であるため、ぜひインド以外でも調べてみてください。

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KAYO OSUMI

函館生まれ 北海道大学医学部卒。2016年9月よりインドの現地採用で就業。当時よりインドに進出する日系企業向けに、インド現地の話題やビジネスに特化した記事を合計600本以上執筆してきている。2018年1月から東京拠点に移し活動を続ける傍ら、現在は株式会社メルカリのインド人・外国籍エンジニアの就業支援。引き続きインドのマーケティング、調査、人材採用を強みとする。
Kayoreena
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