インドのボリウッド俳優自殺から見るボリウッド業界の闇

最近のインド人のメンバーにとって話題となるこのニュースを今日は簡単にブログにまとめてみます。

日本の方も知っているかもしれませんが、約2ヶ月前、ボリウッドで有名なSushant Singh Rajputが自殺をしたことが大ニュースになりました。わずか34歳です。大変早すぎる死でした。

もう2ヶ月前のことです。しかもなんというタイミングで、今年の8月から彼主演のボリウッド映画が日本でも公開になりました。

タイトルは「きっと、またあえる」

皮肉にも「もう会えないじゃん」と突っ込んで、涙が出てきてしまいそうになるほど悲しい現状に言葉も出ません。最近日本で続く、若手俳優の自殺とも重なる部分があり、いろいろなことを考えてしまいます。

しかし、そんな悲しいセレブの自殺において、日々調査が深まっていき事情が闇深くなっています。

現地のメディアでは彼の自殺があってから数ヶ月たった今でも、日に日にこの話題が熱くなる一方です。ソーシャルメディアではSushantの自殺の話題が多くの人の時間を支配してきました。今日は現地のメディア・ニュースからの情報を元に、インドのボリウッド業界で起きている事件とその背景について皆さんとシェアします。

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Sushantが自殺してからの経過

彼が自殺してからソーシャルネット上では、彼の死の調査を要求する巨大なオンラインキャンペーンが行われました。

実際にインドの執行局(ED)、中央捜査局(CBI)、麻薬取締局の 3つの主要な中央機関によってSushantの死の調査がスタートしたのです。

まず執行局は、Sushantの彼女である俳優のRhea Chakrabortyの銀行口座に多額のお金が送金されていることに介入しました。過去1ヶ月の関連文書を調べ、Rheaを含む容疑者と目撃者を尋問し、マネーロンダリングがあったかどうかを調査をしました。Sushantの銀行口座、投資、および彼によって共同設立された3つの会社の文書を精査しました。

中央捜査局はSushantが亡くなった家を調査し、Rheaや他の被告人に尋問し、証人の声明を記録。また彼の死を取り巻く一連の出来事を再構築するために医学および法医学の専門家の調査をいれています。

【写真は2020年8月2日にゲストハウスに中央捜査局が尋問する時に到着したときの様子 Twitterより】

これまでの一連の証拠に基づきSushantが違法に薬物を投与していた可能性があるとし、麻薬取締局も8月26日より調査に参加しました。その結果、Rheaの兄弟のShowikとSushantの側近を含む8名が逮捕される事態となりました。

調査の範囲は拡大しましたが、状況は不明のままです。更に悪いことに、調査対象者の通話記録などがすべてメディアにリークされ、捜査の基本原則を侵害しています。守秘義務に関する倫理規定に違反し、あるセラピストは、俳優の精神状態についての主張をする声明を発表しました。このようなリークは、被告人に彼らの弁護を準備する機会を与えるので、事件を弱体化させます。

更に今、ネット上では「Rheaが月曜日(2020年9月7日)には逮捕されるだろう」と噂されています。2020年9月6日日曜日、彼女のRheaに対して麻薬取締局が6時間近く質問を行いました。

インターネット上ではRheaが取締局の事務所に到着した時の様子が上がっていました。

一部の報道ではSushantがうつ病を患っていたという記事も存在しており、詳細は不明なままです。情報も随時アップデートされており、登場人物も増えていますが、この話題がインドの若手俳優の自殺から数ヶ月たった今も、インドのソーシャルメディアを騒がせています。

ボリウッド業界の構造ー縁故主義による差別ー

この事件を調べていく中でボリウッドの華やかな映画業界の裏に「縁故主義」に関する記事があるのを発見しました。

縁故主義とは、親族の縁、地縁、血縁などの縁がある縁故者のほうを重用する考え方や、ものごとの正しさよりも縁故を優先してしまう考え方のこと。 社会学の分野においては、同族・同郷者に限らず同じ共同体に属する人間の意見ばかりを尊重し、排他的な思想に偏る内集団偏向のことを指す

もともとボリウッドの映画業界は、一握りの家族によってその配役や業界全体を支配されてきたのだそうです。1940年代と1950年代にパンジャブからこの業界に入ってきた人々、そして1970年代と1980年代に参入した俳優、監督、作家…その後の子孫。長い間個人的な関係性に依存してきたボリウッド業界でした。

1998年5月にボリウッド業界が正式な映画産業として地位を獲得し、スタジオが一般企業が参加する法律に参加した時、この古いボリウッド業界の形態が崩れると信じられていましたが、現在もその形態はほとんど変わっていないと記事は伝えています。

主に業界には2タイプの俳優志望者がおり、ネットワークをすでに持っている若手と、他の都市からムンバイに来た人達。依然としてその間には大きな差別が残り、前者には多くのチャンスが与えられる一方で、後者はとても狭き門となっているそうです。

2000年代初頭以降、ハリウッドスタジオがインドでのプレゼンスを拡大し始めたため、家族経営の有力プロダクションの影響力は更に増していきました。エンターテインメントのエコシステムに新たに参入したストリーミングの巨人でさえ、番組のかなりの部分をボリウッドの大物の一部に頼らないといけない状況で、ボリウッド業界に嫌われないよう、エンターテイメントの業界は動かないといけない構図でした。その結果、ボリウッドの個人的・職業的な偏見が、この新しいOTTエンターテインメント業界にも波及してきました。

MeToo運動で見てきたこととよく似ていますが、搾取的で容認できない行為の多くは、それが特権階級の特権であるという理由だけで無視されたり、見過ごされたりしていました。何人かの若手女優は、ボリウッドに存在する「インサイダー契約」のため、突然あっけなくプロジェクトから降ろされたことに言及しています。そして彼らのほとんどは、どのようにボリウッド業界で生きていけば良いかも、誰からも教えてもらえない中、どんどん地位が脅かされていきます。
この有害性がSushantの死に少しでも影響したのではないかという事実は不穏なものであり、業界の上層部に探究を求めています。

Sushantにとって、ビハール州パトナの中産階級の家族で育ったことから、この人生にたどり着くまでは非常に長い道のりでした。Sushantは優秀な学生で、科学…特に天文学に情熱を持っていました。国立物理学オリンピックで優勝した経験を持ち、機械工学を追求するためにデリー工科大学に入学しましたが、俳優になるという彼の夢を追求するためにコースを途中で辞めました。

小さなチャンスを掴みながら俳優への道を進んできたSushantですが、2015年のインタビューでは、外部の者がムンバイの映画業界で名を上げるのは難しいことをどう思うか?と聞かれた時にこう答えていました。

次の2本の映画が連続してうまくいかなければ、もうチャンスはないかもしれない。何があっても生き残れると思い続けなければならない。

ボリウッド業界に求められるもの

彼の予期せぬ死は、彼の闘争に影を落としただけでなく、人々の感情を爆発させ、彼の愛する人たちを互いに対立させ、一部のメディアによる裁判を引き起こし、政治的な乱闘の引き金となりました。記事は最後にこうまとめています。

願わくば、彼の最後の反抗行為が、より良く、より安全で、より有害ではないボリウッド業界のための議論を開く道を開くことになることを願って、他の多くの希望に満ちた人たちが輝くチャンスを期待して待っています。

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KAYO OSUMI

函館生まれ 北海道大学医学部卒。2016年9月よりインドの現地採用で就業。当時よりインドに進出する日系企業向けに、インド現地の話題やビジネスに特化した記事を合計600本以上執筆してきている。2018年1月から東京拠点に移し活動を続ける傍ら、現在は株式会社メルカリのインド人・外国籍エンジニアの就業支援。引き続きインドのマーケティング、調査、人材採用を強みとする。
Kayoreena
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