インドの高額紙幣廃止は効果があったのか? 2018年インド準備銀行報告書より vol.485

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みなさんこんにちは!Kayoreena(@kayoreena1021)です!

 

先日、インド準備銀行(RBI)が21ヵ月前に実施されたバランスシートの悪化を報告する年次報告書を提出しました。

それに伴い、インド関連のmediaでは「高額紙幣廃止」の問題について、2018年夏時点での見解がまとめられていました。

 

ということで本日は「インドの高額紙幣廃止」について今一度ふりかえってみたいなと思います。

 

050 もしも明日から、お札が紙切れになったなら

Kayoreena
ちなみに渡印50日目で高額紙幣廃止の現場に遭遇しましたKayoreenaです。

 

Contents

 

そもそも、高額紙幣廃止ってなに?

 

Kayoreena
以前、高額紙幣廃止についてライブ配信したときはすごく反響があった!

 

高額紙幣廃止の政策とは、2016年11月にモディ首相が発表したインドにおける1000ルピー札と500ルピー札を廃止した政策

▷当時のモディ首相のスピーチの様子。廃止前日の8時半に突然モディ首相のスピーチで発表された。

 

現在市場に流通している両通貨を、明日から無効にするという政策でした。

1000ルピー(約1700円)と500ルピーは高額紙幣にあたり、当時の流通通貨の85%を占めていたため、多額の紙幣が一晩で紙切れとなったのです。

 

Kayoreena
日本で言えば5000円札と10000円札がが突然使用停止になるのと同じ感じ。安倍さんが「明日から札使えなくします」と突然発表。そんな感じです。

 

 

どうして高額紙幣を廃止にしたの

高額紙幣を廃止にした理由はインドにおけるブラックマネーの流通を撲滅するためです。

インドのブラックマネーにより、政府が把握できない違法な経済活動が行われ、その量は国内総生産(GDP)の20%以上を占めるとも言われていました。

贈賄や不正行為の原資となるほか、テロの資金源とも指摘され、価値の高い高額紙幣を無価値とすることで、現金として蓄えられている不正な資金を無効にしてしまおうという計画だったのです。

 

 

高額紙幣廃止後の様子

現地ではさまざまな場面で混乱が見られました。

高額紙幣廃止の直後、あらゆる銀行では新札に変更しようとする人々の長蛇の列ができていました。

 

当時法律事務所から発表されていた告知文(2016年11月)

2016年11月8日付のインド財務省通告により、2016年11月9日以降、現500インドルピー札と1,000インドルピー札が、法定通貨として通用を終了することが発表されました。

現在お持ちの500インドルピー札と1,000ルピー札につきましては、2016年12月30日までの期間、銀行にて新札と交換可能です。新札は、インド準備銀行(RBI)より2日以内に発行されます。

また、ATMからの現金引き出しは、2016年11月18日までの期間、1日にカード1枚につき2,000ルピーまでに制限され、2016年11月19日以降、当該引き出し上限額は1日にカード1枚につき4,000ルピーまでに引き上げられます。

窓口での銀行口座からの現金引き出しは、添付通告の施行開始日(2016年11月9日)より、2016年11月24日の営業時間の終了時までの間、1日10,000ルピーまで、1週間の合計上限額20,000ルピーまでに制限されます。また、当該上限額制限は、2016年11月25日以降見直しが行われます。 

 

人々は紙切れとなった旧500ルピーと1000ルピー札を交換する必要があったのですが、上記のように旧札と新札の交換期間が限定されていたため、人々は「早く自分の手元にある紙幣を変えなきゃ!」と一生懸命列に並んでいたのです。

 

 

Kayoreena
1人あたり1日数千ルピーしか換金できないと、せいぜい手元にある数十万ルピーしか換金できないため、ブラックマネーを多く所持していた悪い人たちは、田舎の安い労働者を集め、人海戦術によりブラックマネーをなんとか新札に換金しようと必死だったのです。

1日一人が4000ルピーしか換金できないものとして、100人集めれば400,000ルピー換金できます。一部報酬として支払っても安いわけです。そのため安価なやすい労働力をひたすら採用したのです。

ですが、それだと銀行側もたまったものではないので、同じ人が何度も列に並ばないように爪に黒いインクを塗って、複数回列に並ぶことを防止したのでした。

*爪に黒インク塗って対策になるのかよってツッコミはやめてw

 

 

▷巷のクレジットカード支払いもパンク状態に…

 

さらには高額紙幣の政策でお先真っ暗になってしまい、自殺者が出る事態にまで発展しました。

 

インドで「たんす預金」の女性自殺 高額紙幣廃止で混乱広がる」より

高額紙幣の廃止が突然発表されたインドで、いわゆる「たんす預金」をしていた農家の女性が、自分が無一文になってしまうと思い込み、悲観のあまり自宅で首をつって自殺した。警察が11日、明らかにした。

南部ハイデラバード(Hyderabad)の東方に位置するマハブババード (Mahabubabad)に住むカンデュクリ・ビノダ(Kandukuri Vinoda)さん(55)は、流通が停止された1000ルピー(約1600円)札と500ルピー(約800円)札で大量の現金を自宅に保管しており、ナレンドラ・モディ首相による8日の突然の発表を聞き、貯金が全て価値を失ったと思いパニック状態に陥ったという。

ビノダさんは、先月土地の一部を売って現金で550万ルピー(約880万円)を受け取っていた。地元メディアの報道によると、ビノダさんはその中から夫の医療費を支払い、残りは新たな区画購入に充てるつもりだったという。

 

 

その一方で、高額紙幣廃止で恩恵を受けた人たちも

 

 

例えば、インドにてオンライン決済最大手Paytmは、高額紙幣廃止1日後に、アプリのダウンロード数が200%、取引量が250%増加、チャージ額が400%、取引額は1,000%増加したと発表しました。

Paytmは当時、キラナ店、ブランド小売店、パン屋、ガソリンスタンドなど、インドの1200都市にわたる850,000箇所のデジタル取引を設置していました。

 

#paytm どこでもあります

Kayo Osumiさん(@kayo_osumi)がシェアした投稿 –

廃止直後の数日は同社はUserに対し、通貨の流通悪化によるビジネスの損失を避けるため、Paytmのアプリをダウンロードするように促していました。

この高額紙幣廃止の政策が一気に電子マネーの普及に貢献したと、多くの学者は分析しています。

 

 

2018年夏 高額紙幣廃止からもうすぐ2年

モディ首相の目玉政策として、実績として語られることが多い高額紙幣廃止からもうすぐ2年ですが(ちょうどアメリカ大統領選挙と同日だった!)その後、高額紙幣廃止の政策は本当に効果があったのでしょうか。

今日は2本のQuartz Indiaの記事から、モディ首相の高額紙幣廃止(demonetisation)に対する意見についてまとめます。

 

1本目「What demonetisation? Indian households’ cash holdings are at a 10-year high」より

 

モデイ首相が2016年11月に衝撃的な高額紙幣廃止を発表したとき、その目的の1つは、インドのキャッシュレス社会の実現でした。

ほぼ2年後、結果として、彼がまったく意図せぬ結果を達成したように見えます。

 

8月29日に発表されたインド準備銀行(RBI)の年次報告書によると、インドの家計の現金保有は、2018年の終わりに国民所得の2.8%に急増するとされており、これはほぼ10年ぶりの高水準となります。一方、企業預金においては、2.9%の10年ぶりの低水準に落ち込みました。

 

現金払いの規制の廃止と通貨需要の緩やかな回復に伴い、預金の伸びは減少し、高額紙幣廃止1年後の2017年12月8日には2.6%の最低水準に達しました。その後着実に増加し、2018年3月31日には5.8%となりましたが、1年前の11.1%よりは低い数値となっています。

 

Kayoreena
銀行に預けるお金=預金の数値が下がっている▷現金で保有している▷キャッシュレスになってない

ということが言えます

 

インドにおけるGDPにしめる流通通貨は新興国と先進国の間でも高値の10.9%になり、 2017年度は8.8%となっています。

 

Kayoreena
とは言いながら、実はこの数値日本のほうが高い。

日本国内で流通する現金(銀行券と硬貨)の対GDP比率は2016年に20.0%。米国に比べ約2.5倍、最低のスウェーデンの約14倍となっている。

つまり日本の現金依存度のほうが圧倒的に高いということ。

CPMIメンバー国に関する統計表より

 

2016年11月8日、モディ首相が廃止した500ルピーと1000ルピーは、流通する通貨の約86%を占めていました。そのため、急激な流通紙幣の減少により、銀行預金の膨張とデジタル取引の急増を招く結果になりました。

 

しかし、混乱がおちつき正常に戻った直後に、いつもどおりの生活に戻ったのです。

 

電子取引は増えているが政府の期待通りのものではなく、現在経済活動が拡大するに置いて、現金はまだまだ強い決済手段として取り扱われていると、現地ATM事業代表の方が述べていました。

 

 

そしてこちらの記事「India’s central bank just proved demonetisation was for nothing

 

TOPIC : 政策は成功か失敗か

モディ政権は、高額紙幣廃止の目的について、インドをキャッシュレスの社会にすることに加え、計上されていない国内の資産を明確にすることを表明していました。

その移行を実行しつつ、徐々にインドの現金に対する情熱は戻ってきていました。

 

▷一時的な紙幣の流通は減ったが、徐々に量を戻している。

 

紙幣の流通量は、2018年3月末の約Rs18兆となり、37.7%増加したと最新のRBI報告書が伝えています。現地専門家は、電子取引が増加しても、政府が期待したペースでは上昇していないと指摘しています。

 

 

政府関係者のやり取り

今回のインド準備銀行の報告書の発表を受け、Congress(国民会議:野党)はモディ首相(BJP:与党)への謝罪を要求しました。

RBI(インド準備銀行)の報告によると、市場に出回っていた500ルピーと100ルピーの99.3%は銀行に戻ってきているとのこと。

実際は、99%に当たる15兆ルピー近くの紙幣を廃止したにも関わらず、ブラックマネーとして根絶できたのは1600億ルピーとわずか1パーセントという効率の低さや、1600億ルピーのブラックマネー根絶のために、紙幣印刷代で2100億ルピーを使っているなど、高額紙幣廃止の実績として不十分であることを野党側は指摘しました。

 

 

Kayoreena
元財務大臣のChidambaram より

モディよ、2017年の独立記念スピーチにおいて「3兆ルピーのブラックマネーを政府に戻す!」と言っていたのに、それを忘れたのかい?

という野党側からの指摘(twitterより)

 

Chidambaram氏はさらに、インド経済は雇用喪失、産業の閉鎖、GDPの伸びが高額紙幣廃止によって低迷したと指摘しました。

 

Kayoreena
インド経済はGDPの1.5%を失った。それだけで1年に2.25兆ルピーの利益損失。100人以上の人生が失われ、1億5000万の日雇い賃金労働者は、数週間、生活を失ったと指摘

 

国民会議のManish Tewariは、RBIの報告書を引用して「(モディ首相は)ブラックマネーと偽札を排除する目的を達成できなかった「悲惨な愚か者」である」と述べ、

デリー首都圏首相をつとめるArvind Kejriwal(BJPのライバル)は、政府は高額紙幣廃止についてまとめた白書を出すべきだと述べました。

 

 

 

 

現時点での総括

 

Kayoreena
個人的には99%の紙幣が銀行に戻っていたら政策として十分なのでは?という意見をもっていたのですが、

ここでモディ政権が指摘されている理由は、おそらく元々は地下経済のお金が現金で紙幣全体の4~5割あると言われていたインドに於いて、表には出てこれないはずのお金が出てきた=悪い人が罰せられる、はずが、99%戻ったのに罰せられた話は全然無いので、あの国民全体での混乱は何だったのか…というのが国民の感想ではないかと。

来年選挙もあるため、野党側はエビデンスをもとに与党の政策を批判するにはいい材料。

実際にブラックマネーが最終的には浄化されて新紙幣に変わってしまっただけだったという結果しか見えていない。

結局は「政策あれば対策アリ」ということで様々なインド的な手段でブラックマネーは逃れていったという事ではないかと。寺院、地域銀行、ボートバンク、などなど、ロンダリングの助けをしたのかと想像しますが誰も検証をしていません。

 

総括は、現地側で生活をする日本の方のご意見も少し混ぜて作りました。

 

 

Kayoreena
私個人的な感想としては、政策の実行力は評価しつつ、でもなかなか一回じゃ変わらないよねという印象。高額紙幣廃止で電子取引増加したとはいうけど、ローカルの人とか普通にキャッシュ使ってる気がする。

もちろん変化もしてる。やはり大きな国すぎて、一言では何ともいい難いですが、いろいろな視点から評価するのは大事かなと。今回は初めて高額紙幣問題についてまとめてみました。

「何を成功の定義にするか」によって政策の評価は変わってくるので、結局、インドの高額紙幣廃止政策は成功したの?という点においては

「 Was demonetisation a success or failure? It is for the readers to decide in the view of known demonetisation facts.

この言葉を添えて、終わりにしたいと思います(うまく逃げたw)

 

 

参考記事:

Over 99 per cent demonetised currency returned to banks: RBI report

Demonetisation: What India gained, and lost

Congress seeks apology from PM Modi as RBI says 99.3 per cent notes returned after note ban

 

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KAYO OSUMI

函館生まれ 北海道大学医学部卒。2016年9月よりインドの現地採用で就業。当時よりインドに進出する日系企業向けに、インド現地の話題やビジネスに特化した記事を合計600本以上執筆してきている。2018年1月から東京拠点に移し活動を続ける傍ら、現在は株式会社メルカリのインド人・外国籍エンジニアの就業支援。引き続きインドのマーケティング、調査、人材採用を強みとする。
Kayoreena
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